性感染症(STI:Sexually Transmitted Infections)とは、主に性行為によって感染する病気のことです。人の体液(血液、精液、膣分泌液など)に存在する病原体が、性行為のときに、粘膜や傷口から体内に入り込んで感染します。性感染症においては感染予防、すなわち「うつされない」、「うつさない」ことが大切です。コンドームを使用したり、出血を伴うような危険な性行為を避けることで、性感染症のリスクを下げることができます。もし感染した場合は、早期診断、早期治療がきわめて重要となります。またパートナーの診断と治療も同時に行う必要があります。
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)が原因の性感染症です。性交以外で感染することはまれです。男性は主に尿道炎を、女性は子宮頚管炎を呈します。男性の尿道炎は、2~9日の潜伏期を経て通常は膿性の分泌物が出現し、排尿時痛が生じます。女性は症状が出にくいため、感染に気づかず、知らないうちに骨盤炎症性疾患、卵管不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛を引き起こす可能性があるので注意が必要です。淋菌は咽頭にも存在する場合があるため、オーラルセックスでも感染します。診断は培養検査や遺伝子増幅法(PCR)などで行います。治療は抗菌薬の注射もしくは点滴になります。
クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)が原因の性感染症です。クラミジア感染症はわが国で最も多い性感染症です。男性では尿道炎が最も多く、若年層の精巣上体炎の原因菌ともされています。おもな症状は排尿痛、尿道の不快感、掻痒感などです。淋菌性尿道炎に比べて潜伏期間は長く、通常2~3週間です。女性では子宮頸管炎、骨盤内付属器炎(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、不妊などの原因になるため注意が必要です。淋菌と同様、オーラルセックスでも感染することがあります。診断は尿や尿道分泌物の遺伝子増幅(PCR)法で行います。治療はマクロライド系もしくはニューキノロン系の抗菌薬を内服します。
梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の感染が原因です。近年、梅毒は増加傾向にあると同時にHIVとの混合感染も問題になっています。潜伏期間は3~6週間程度で、時間の経過とともに様々な症状が逐次出現します。その間症状が軽快する時期があり、治療の開始が遅れることにつながるため注意が必要です。初期症状は、感染後約3週間後に梅毒トレポネーマが感染した性器などに、痛みを伴わないしこりや潰瘍(硬性下疳)が形成されます。痛みを伴わないリンパ節腫脹を伴うこともあります。診断は、局所の所見と血液検査(病原菌に対する抗体価を測定)で行います。治療はペニシリン系の抗菌薬を投与します。
単純ヘルペスウイルス(HSV:Herpes simplex virus)の感染によって性器やその周辺に水疱や潰瘍等の病変が形成される疾患です。感染はHSVに感染している相手との性交によって起こり、相手の性器に明らかな病変がある場合のみならず、無症状でも性器の粘膜や分泌液中にウイルスが存在する場合には感染します。また唾液中にHSVが存在する場合には、オーラルセックスでも感染します。また再発しやすい疾患でもあります。治療は抗ヘルペスウイルス剤になります。
尖圭コンジローマ(Condyloma acuminatum)は、ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papilloma Virus)6、11型などが原因となる性感染症です。主に生殖器やその周辺に発症します。カリフラワー状という特徴的な形態のため、視診での診断が可能です。治療は塗り薬(イミキモドクリーム)や電気メス等による外科的切除となります。再発率が約30%と高いため、治療後も注意が必要です。
カンジダ感染症はCandida albicansという真菌、いわゆるカビによる感染症です。女性の場合は陰部の痒みや、おりものが増えたりします。男性の場合は亀頭や包皮に痒みや赤みが生じたり、白いかす(白苔)が付着したりします(カンジダ性亀頭包皮炎)。膀胱炎を起こすこともあります。抗真菌薬の内服や塗り薬で治療します。
トリコモナス原虫による感染症です。女性の場合は陰部の痒み、灼熱感、おりもの増加などを認めますが、男性の場合は無症状か、軽度の排尿時痛を自覚する程度です。治療はメトロニダゾールとうい抗原虫薬を使用します。
上記以外の性感染症にはAIDS(HIVによる)、成人T細胞白血病(HTLV-1による)、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性の感染症があります。潜伏期間を過ぎてから血液検査を行うことにより診断します。これらの疾患につきましては、内科での詳しい検査と治療が必要になります。
性感染症に関する詳細は、厚生労働省のホームページの「性感染症」をご覧ください。
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